続く6月初旬、「九州テニス選手権大会」に挑戦しました。場所は再び博多の森テニス競技場です。この大会の目的は、前述した一度も勝ったことのない相手、細川敬介選手との対戦。
相手を左右に振り回すクレバーなゲーム運びとスピードボールが持ち味の難敵です。幸いこの大会を迎える頃には、僕の身体の調整もだいぶ仕上がってきていました。その成果が出たのか、僕は1回戦から連勝を重ね、今年初めての決勝進出を果たします。予想通り反対側のブロックからは、細川選手が勝ち上がってきました。ついに決勝戦で細川選手との顔合わせの実現です。
ファーストセットはデッドヒートの様相となり、ゲームカウント佐藤6-6細川でタイブレーク。その後も競り合いを続けたましたが、最後の最後に2ポイント連取されタイブレーク6-8でこのセットを落とします。続く第2セットでは負けじと食らいついていったものの、2-6と先行され、あっけなく試合終了のコール。残念ながらストレート負けを喫し、この試合でも細川選手の前に連敗記録を更新することになりました。
やはり細川選手は強い。しかし、負けはしたものの手応えをつかめたのも事実です。それまでの対戦では全く歯が立たないと思っていましたが、この日のゲームでは予想以上に良い戦いができたのです。もっと簡単にやられてしまうと思っていましたが、競り合いからラリーをつなげ、第1セットではタイブレークに持ち込むことにも成功しました。うまく勝機を見出しさえすれば、次の対戦では初勝利を収められる可能性もあります。
この日の僕は、戦略がないままその場しのぎに終始し、試合の流れの中で細川選手のボールに対処するのが精一杯。相手の弱み、自分の強みを見極め、どうすれば勝てるかを考える余裕すらありませんでした。間合いを取った駆け引きができないばかりか、スライスショットが浮いてしまい、それが相手のチャンスボールとなって、逆に決められてしまう場面も多々ありました。
「細川選手に勝つためには、なんとか攻略策を講じないと…」。そのためには、まずスライスを浮かないようにすること、「サーブ&ボレー」でサーブを打ってすぐネットに詰め、相手の時間的・心理的余裕を奪うこと、ボールがワンバウンドしてから打つ「グランドストローク」で打ち負けないフィジカルを手に入れること。この3点を細川選手のプレースタイルに合わせて精査し、もう一度組み立て直すことが先決です。僕はそうやって見直すべき点を1つ1つ潰(つぶ)しながら対策を練り上げていくことにしました。そしてその地道な努力が、秋に行われる全日本ベテランで大きな効果を発揮することになるのです。
残念ながら、この大会でも野原さんへ優勝の報告はできませんでした。『決勝で細川選手に6(6)-7、2-6で負けてしまいました。今回は身体も作れて調子も良かったのですが…。なかなか思うようなプレーができず、道田選手、ビビアン選手、松枝選手、細川選手の4人に負けてだいぶ凹み気味&焦り気味。今は全日本優勝のための試練だと思って前向きに考え、もっともっとトレーニングして、名古屋では優勝できるように頑張るからね。絶対に諦めないよ』。
とはいうものの、内心では「どうしよう。強い選手ばかりだよ」と焦りと不安が入り混じります。「優勝」どころか「勝利」の2文字にすら手が届かず、諦めにも似た悔しさが募ります。けれどメッセージのやり取りを通じて、彼女の「生きよう」とする姿勢が伝わってくるだけに、弱音を吐く訳にはいきません。
野原さんからは『ホントにありがとうございます。強い気持ちになれました!頑張ります。絶対にテニスできるように。コーチに試合、応援に行けるように!』と返信が届きました。その後、何度かメッセージを送ったのですが、容体に変調をきたしたのでしょうか。野原さんからの返信は次第に少なくなっていきました。