第9章 予想外の好スタート | 佐藤政大 公式サイト|masahiro-sato.com

第9章 予想外の好スタート

2015年9月26日。東山公園テニスセンターのコートに立つ僕の胸には「日本商業開発」のロゴが輝いていました。晴れがましい気持ちで、第77回全日本ベテランテニス選手権の開幕を迎えることができたのです。シード枠には、僕が要警戒選手としてマークしてきた松枝選手、堀口選手、道田選手、右近選手をはじめ、長谷川選手や佐藤仁則選手らの名前が並んでいました。僕はノーシードからの出場ですが、野原さんとの約束を果たし、松岡さんの恩に報いるためには、そんなことは気にしていられません。この試合にむけて、やれることは全てやったのです。あとはとにかく一戦一戦、目の前の試合に全力を傾けて勝ち抜くだけ。それを5回続けられれば、ついに「優勝」に手が届くのです。

 強豪選手が居並ぶ中、どこで負けてもおかしくない組み合わせでしたが、不思議と僕はリラックスしていました。「人事を尽くして天命を待つ」の心境というか、清々しいほど前向きな気持ちでこの瞬間を迎えていたのです。もしかしたら、母や野原さんが僕のそばにいてくれたのかもしれません。僕はその不思議なパワーを纏(まと)い、大会に臨みました。

 さあ、いよいよ1回戦が始まります。最初の相手は村口順一選手。立ち上がりこそやや緊張したものの、手堅く試合を運んで第1セット6-2と先行、第2セットも6-4で奪い、危なげない初戦突破となりました。

 2回戦は、8月の試合で雪辱を果たした長谷川尚之選手と三たびの対決。昨年の全日本と同じ2回戦、同じコートでの試合となり、どこか因縁めいたものを感じます。昨年は接戦となりましたが、今回は第1セット6-2、第2セット6-4のストレート勝利。どちらに転ぶかわからない展開の中、何とか収めた辛勝でした。どうやら、これまでの反省に基づいた作戦が効果を発揮したようです。

 以前の僕でしたら「これが俺の実力だ!」などと浮き足立ってしまうところなのですが、今年の佐藤政大は違います。勝ちに奢(おご)らず運に感謝し、一層気を引き締めることを覚えたのです。1年にも及ぶフィジカルとメンタル両面の研鑽(けんさん)が功を奏した結果です。

 続く3回戦は、8月に惜敗を喫した佐藤仁則選手との再対決。あの時と同様、今回も彼の根気強いプレースタイルに変わりはありません。前回は勝ちを取りに行く姿勢に甘さが残り、今ひとつ攻めきれないまま逆転されるパターンが目立ったのですが、その教訓をもとに今回は攻撃の精度を磨き上げました。その結果、第1セットを6-3、第2セットは6-1と連取。初戦から3試合連続でストレート勝ちを収められました。

 今大会の好調スタートには、秘密がありました。自分でも驚くほど身体が軽くなっていたのです。実は9月から日本商業開発のサポートを受けたことで、専属トレーナーを大会に帯同する金銭的余裕が生まれ、常にベストコンディションを保てるようなっていたのです。しかもトレーナーを務めるのは、絶対の信頼を置く吉村院長です。このことは毎試合に全力で臨む僕にとって、身体的にも心理的にも大きな追い風となりました。

 多くの方々に支えられて迎えた準決勝は、道田光選手との対戦。

 

3月に行われた「九州毎日テニス選手権大会」で粘り負けを拝した相手です。道田選手は、あの堀口ビビアン君をストレートで破っての準決勝進出ですから、かなり調子が上がっているに違いありません。これには僕も、ちょっと怖じ気づいてしまいそう。しかし今回は、道田選手対策を入念に練り上げての再戦ですから、僕も自分に勇気を再注入して試合に挑みます。

 互いにプレッシャーを感じながら始まったゲームは、序盤から大混戦。第1セットは3-6で奪われ、さらに第2セットでも一時0-3までリードを許す場面を迎えます。しかしそこから気を取り直して反転攻勢。一気にタイブレークまで持ち込み、さらに7-6と巻き返します。そして迎えた第3セット。「救急車で運ばれても構わない、とにかく体力の続く限り走り回って、今度こそ絶対に粘り勝ってみせる」。そう気持ちを切り替え、強気で攻め込むことで、なんとかカウント6-4で押さえ込むことに成功。4時間にも及ぶ死闘を制し、ついに決勝進出を決めました。しかし勝ったとはいえ、本当に道田選手は手強い。ギリギリのつば迫り合いの連続に、完全に疲れきってしまいました。

 

 隣のブロックでは、九州テニス選手権決勝で敗れた細川選手と、関西オープンでの選手対戦が叶わなかった右近選手が準決勝を争っていました。どちらが勝っても気の抜けない相手ですが、6-2・6-3で細川選手が勝利。決勝では、未だ勝ったことのない細川選手が相手という結果となりましたので、僕も気を引き締め直さないと。

 そうとなれば明日の決勝に向けて集中したいところですが、皮肉なことにその日はもう1試合、ダブルス戦が控えていました。道田選手のとのシングルス準決勝でスタミナを使いきった状態でのダブルス出場は、3時間もの長丁場となり、激戦の末に敗北という惨憺(さんたん)たる結果。わずかに残された体力も完全に消耗し尽くし、ボロボロの身体を引きづるようにホテルへと戻りました。もう既に夜10時を回っており、吉村トレーナーに身体のメンテナンスしてもらうだけでも限界です。こんな状態ではもう、明日の決勝戦について考える余裕すらありません。とにかく食事を済ませ、早く身体を休ませることで精一杯でした。

 

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