第28話 友に救われる | 佐藤政大 公式サイト

ひねくれていたとはいえ、群れることは好まなかった高校時代。
そんな僕も、幾人かほどですが、心を許せる友人を持つことができました。

1人は、矢沢永吉の大ファンで応援団に所属していたT君。見るからにヤンキーでしたが、曲がったことが嫌いな彼は周囲からの信頼も厚く、その後に応援団長を務めることになります。その反面、シ○ナーが大好きというお茶目な側面も。

もう1人は、無駄に粋がったところがないのに、どこか空恐ろしい凄みを醸し出していたW君。後に仲良くなってから知ったのですが、実は彼はヤクザの息子。短髪で、もの静かな面差しの中にも、どこか大人びた雰囲気のある男でした。

3人目は、東京からサッカー推薦で宇都宮学園に入学したI君。彼は学校近くのアパートで一人暮らしをしており、その部屋は当然ながら僕たちのたまり場となっていきました。僕らはI君の部屋に集まっては、マンガを読んだりタバコを吸ったり酒を飲んだり。時にはシ○ナーを吸う仲間もいましたが、僕は決してそれだけは手を出しませんでした。なぜなら、それをやっている時の友人の姿を見てしまったからです。
「俺もあんな風になってしまうのか」と思うと、どうしても耐えられなかったのです。

ところで同級生のK君に、県立高校生から呼び出しが掛かったのは、高校2年の頃でした。
「お前殺すぞ。ボコボコにしてやるから顔を出せ」と言われたそうです。「自分たちは10人で行くから、お前らも何人でもいいから仲間を連れて来い」と言うのです。そこで、K君は、W君と僕の3人で指定された場所に出かけて行くことにしました。「10人相手なら、こちらは3人で充分だろう」と考えたからです。この頃になると、僕もすっかりケンカ慣れしていましたし、他の二人はそれ以上に実戦経験が豊富でした。実際のところ彼らと一緒なら、まったく不安は感じませんでした。

指定場所に着いてみると、K君を呼び出していた相手は、県立高校の3年生だったことがわかりました。しかしどういう事情か知りませんが、相手は2人しかいません。その上、呼び出した当人は、K君の姿を見るなりすぐに「ゴメン、悪かった」と謝りだすではありませんか。バカバカしくなった僕は「もういいから帰ろうぜ」と言ったのですが、生来から血の気が多い2人はすでにテンションマックス状態。怒りに収まりがつきません。

平身低頭する彼らを、まるでサンドバッグのように殴る蹴るの有り様です。僕が止めに入っても2人の勢いは止まりません。ただ事ではない気配に、近くを通りかかった誰かが通報したのでしょう、すぐに警察官が現場に駆けつけました。これにはさすがの2人もケンカどころではありません。警察官たちは僕たちを一列に並べ、事情を聞きました。そして僕たちは、近くの交番へ一緒に来るように命じられました。

しかしその時、K君とW君は僕を指差し「こいつは手を出していないから」と、警察官に訴えるではありませんか。そして僕に「明日試合なんだから交番には来るな。」と言ってくれたのです。そう、そうなんです。僕は翌日にテニスの試合を控えていたのです。それなのに決闘に出かけて行くなんて、あの頃の僕は脇が甘いですね。でも警察が来るとは、その時は考えもしませんでしたし、何より友達が危ない目に遭いそうなのに、知らんぷりはできまなかったのです。

幸いにも警察官も彼らの主張を聞き入れ、僕はその場で2人を別れることに。立ち去りがたい思いにさいなまれながらも、そのまま彼らを見送ったのでした。

さて、翌日のことです。2人がかばってくれたお陰で、僕は何事もなかったかのようにテニスの試合会場に向かいます。コートに入り、ウォーミングアップをしながら対戦校側を見ると、客席に包帯姿の2人組がいるのに気がつきました。「あれ、あいつらどっかで見たことあるなぁ?」。彼らの姿に既視感を憶えた僕は、じっと目を凝らします。そして気が付いたのです。「昨日のヤツらだ!」と。

そう、包帯姿の2人組はK君を呼び出したの3年生だったのです。なるほど、今日の試合の相手校はあの県立高校。そしてあの2人はその県立高校のテニス部員だったのです。それに気がついた僕は、わざと大きな声で「あっ!」と指差してやったのでした。

 

 

 

関連記事

  1. 2023.03.29

    第13話 アメリカ遠征で手に入れたもの

    アメリカ遠征に参加したことで、僕が得た最大の収穫といえば、何といっても「ノーカット・ビデオ」を鑑賞で…

    第13話 アメリカ遠征で手に入れたもの
  2. 2023.10.27

    第21話 恋の片道600km

    地元中学校へ入学する頃になると、僕も年相応に思春期を迎えました。クラスには他の小学校出身の生徒もたく…

    第21話 恋の片道600km
  3. 第5話 父のテニススクール…

    2019.12.17

    第5話 父のテニススクール…

    支店長からの支援を受けたこともあり、父はテニスの強化コーチとして全精力を傾けられるようになり…

    第5話 父のテニススクール…
  4. 1話 父・政雄、母・久子と出会う

    2019.10.15

    1話 父・政雄、母・久子と出会う

    佐藤政大ヒストリーズ父・政雄、母・久子と出会う1972年10月15日。僕・佐…

    1話 父・政雄、母・久子と出会う
  5. 2023.10.4

    第15話 個性を出してはいけない

    今では考えられないことですが、僕が中学校に入学した1980年代は、個性的であることは許されない時代で…

    第15話 個性を出してはいけない
  6. 2024.12.12

    第24話 人生の岐路

    渡邊哲さんの他にもう1人、テニスの試合の際に僕を泊めてくれる仲間がいました。横浜に暮らす、脇三郎…

    第24話 人生の岐路
  7. 2019.10.15

    出会いの人生…

    沢山の方から台風の被害は大丈夫?とご連絡をいただきました。ご心配をお掛けしました。弊社はほと…

    出会いの人生…
  8. 第2話・望まれなかった誕生

    2019.10.23

    第2話・望まれなかった誕生

    佐藤政大ヒストリーズ望まれなかった誕生父は、I社と専売契約を結ぶ医療機器販売…

    第2話・望まれなかった誕生
  9. 第4話 父がコーチへ…

    2019.11.29

    第4話 父がコーチへ…

    ついうっかり口が滑ってしまったことが契機となり、県代表として国体に出場するまでに腕を上げた父…

    第4話 父がコーチへ…
お問い合わせ
PAGE TOP