第26話 上野先生との約束 | 佐藤政大 公式サイト

高校のテニス部に入って最初に迎えた公式戦が、関東大会の県予選でした。高校生の大会は、シングル・ダブルス・団体戦(シングル2試合+ダブルス1試合)の3トーナメントで行われます。僕はこの全てのトーナメントに出場。団体戦では途中敗退したものの、シングルスでは優勝し、山梨県で開催される本大会への出場を決めました。

しかし問題はダブルスです。創部間もないテニス部では、1年生とはいえ実践経験のある僕を軸としたペアを組む必要があったのですが、この頃の僕は気性の激しく、短気を起こすこともしばしば。同級生はもちろん、先輩であっても折り合っていくのが難しいと上野先生考えたようです。

そこで先生が僕の相手に選んでくれたのが、大らかで包容力のある1年先輩の上野さんです。「上野さん」とはいっても、部長の上野先生とは血縁関係はなく、同じ名字なのは単なる偶然です。他にも強い選手はいたのですが、血気盛んな僕を上手くコントロールできるのは、やはり上野先輩しかいなかったのだそうです。

先生の思惑はピタリとはまりました。僕と先輩の相性はバッチリだったのです。しかし組みたてホヤホヤのペアが勝てるほど、勝負の世界は甘くはありません。早々に敗退を喫し、本戦出場を果たすことはできませんでした。

この結果にどうにも納得がいかなかったのが、僕とペアを組んだ上野先輩です。先輩はどうしても「もっと強くなりたい!」と感じたようで、僕にある提案を持ちかけてきました。その提案とは、父が教えていた「サトウテニスクラブ」に入会する、ということでした。

先輩の熱い気持ちに、父も僕も反対する理由はありません。早速クラブに入会した先輩は、毎週の火・木・土を基本に、学校での練習が終わるとそのまま、僕と一緒にクラブのコートへと向かい、夜遅くまで共にトレーニングに励むようになったのです。

ここである問題が発生しました。先輩は遠方から通学してましたが、練習が終わる時刻には最終電車が出てしまうのです。田舎の鉄道は、終電がとても早いのです。そこで先輩は、毎週3日は我が佐藤家に泊まり込みで練習に打ち込み、翌朝は僕の家から通学し部活の後に実家に戻る、という「半下宿生活」を送ることになりました。そのことで僕たちはさらに気心が通じ合い、まるで兄弟のような関係となっていきました。先輩の存在は、僕にとってもモチベーションのアップにつながりましたし、きっと先輩も同じように感じていたに違いありません。それにしてもまだ16歳の少年が親元を離れ、、テニスのために下宿生活を送るというのですから、その決意は並大抵のものではなかったでしょう。

関東大会が終わると、あっという間にインターハイの県予選が始まります。僕にとってはもちろん、財布事情が苦しい佐藤家にとっても、この予選は学費免除がかかった大切な大会です。そんな理由もあって緊張はしましたが、関東大会での経験も重ね、何とかシングルスでの優勝を勝ち取れました。

続くダブルスでペアを組むのは、もちろん上野先輩です。こちらのトーナメントでは、先輩の適切な采配もあって互いに思い切り力を発揮することができ、ベスト8まで勝ち上がることができました。本大会出場にはもう一歩及びませんでしたが、長い歴史を持つ強豪校がひしめく中で勝ち得たベスト8は、創部間もない我がテニス部にとって、とても価値あるものだったに違いありません。

残念ながら団体戦では良い結果は残せず、本大会出場を果たせませんでした。
しかしシングルスで優勝したことで、上野先生との約束を無事に果たせた僕は、ホッと胸をなで下ろしたのです。

その後に迎えた神戸でのインターハイ本戦。シングルスの出場ですが、僕のお目付役として上野先輩も同行しての大会です。初戦で迎える相手は、高校ランキング10位の3年生。いきなり強敵相手の試合に、緊張せずにはいられませんでしたが、先輩が浮わつきがちな僕の気持ちを上手にマネージしてくれて、落ち着いて戦うことができました。
一時は僕が優勢になる展開にまで持ち込めたのですが、やはり力量の差は歴然。善戦虚しく1回戦敗退となってしまいました。

本当のところ、僕は優勝する気満々でこの大会に臨んでいたのですが、高校のレベルはそんなに甘くなかったのです。けれどこの試合では僕なりに実力を出し切れたこともあり、その結果には充分満足できました。

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