第14話 空から自転車が降ってきた | 佐藤政大 公式サイト

小学校を卒業すると、東京でのテニス仲間とのつきあいの一方、宇都宮では新たな中学校生活が待ち受けていました。あの頃の僕は、都会と田舎、二つの世界を行き来していたことになります。

僕が中学に入学した1985年は、「ビー・バップ・ハイスクール」が映画化されたり、尾崎豊の「卒業」がリリースされるなど、ツッパリが全盛期を迎えてていた時代。ご多分に漏れず僕が入学した公立中学校でも、変形学生服を身にまとった“夜露死苦”な先輩たちが幅を利かせていました。学校内は、“盗んだバイクで走り出”したり、“夜の校舎窓ガラス壊してまわった”り、そんな荒んだ空気感に包まれていました。

東京のテニス仲間との洗練されたストリートカルチャーと、地元中学での粗暴なヤンキーカルチャーという両極端の狭間(はざま)で、僕は時に背伸びをし、時に弱肉強食にさらされながら、振り子のように揺れ動く魂をすり減らしていったのです。

ご多分に漏れず、僕の中学校でも校内暴力が渦巻いており、学校中の至る所でケンカをしていたり、窓ガラスが割れていたりすることも珍しくありませんでした。僕はそんな光景を目の当たりにして、「とんでもない所に来てしまった……」と感じたのです。

僕の中学校は、当時1,500人以上の生徒を抱える超マンモス校で、当然ながら“ツッパリ”の先輩たちの数も相当のものでした。入学早々、中庭で3年生の先輩達がナイフ対警棒でケンカしているのを見た時には「さすがにこれはヤバい」と血の気が引きました。僕は好奇心よりも恐怖が先に立ち、慌ててその場から逃げ出しました。

実は僕たちの中学校には在日コリアンの生徒たちも通っていたらしく、同じツッパリ同士に見えても、その内部では「日本人グループvs韓国人グループ」という勢力争いも勃発していたようでした。

ツッパリたちの中には暴力団員や組長の子女もおり、どうにも手がつけられない状態です。彼らは教師たちにも日常的にケンカを挑んでくるほどで、毎日学校のあちこちでモノが投げられたり壊されたりする音が聞こえてきました。平和で長閑(のど)かな小学校の延長といったイメージを持っていた僕にとって、中学校はまったく別次元の空間であり、まるで実力ヤクザ映画のような世界に迷い込んでしまったような感覚でした。

1年生の僕からすれば、上級生たちは見上げるほど大きな体。中にはゴツいオッサンのような先輩もいます。ですから僕は、なるべく彼らと目を合わせないように気を付け、縮こまるように毎日をやり過ごしていました。

そんなある時、衝撃的な事件が起こります。僕が登校してきた時、校舎の裏側の駐輪場に、乗ってきた自転車を駐めようとした時のことです。誰かが大声で「アーッ!」と叫んだのです。

慌ててみんなが見ている方向へ目を向けると、校舎3階の廊下の窓から、自転車が投げ落とされる映像が視界に入ってきました。カラカラとタイヤを空転させながら、自転車は僕の方へと落ちてきます。それは、ほんの数秒の落下時間にもかかわらず、なぜかスローモーションのようにど、ゆっくりと落ちてくるようにも感じられました。けれど僕は足が竦んでしまい、その場から動くことすらできません。

「ああっ、ぶつかる……!」

そう思って目をつぶった瞬間、自転車は大きな音をたてて僕のすぐ横の地面に激突しました。もう、恐怖で頭は真っ白。何がなんだかわかりません。もしかすると自分が狙われたのかもしれない、そう思い始めるとただただ恐ろしくて、居ても立ってもいられませんでした。

実際のところ、本当に僕が狙われたのかどうかは今もって不明ですが、あの時に感じた恐怖感は、やがて周囲への不信感となり、さらに孤独感へと変化していきました。
そしてそれらの感情は、徐々に剥き出しの敵意へと転じていくことになるのです。

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