僕は思うのです。ベテラン大会というのは、「ジュニアや一般で良い成績が残せなかったとしても、夢を諦めずに挑戦し続ける人たちの戦いの場」であると。そこは「昔強かった人」ではなく、「今強い人」が勝つ、言い訳のきかない真剣勝負の場です。僕にはそれがとても新鮮に感じられました。
だからこそ僕も対戦相手にリスペクトを払い、どんなときも真剣な気持ちで挑戦しよう。僕はそう自分に言い聞かせ、心を引き締めて大会に臨みました。
さて、いよいよ「全日本ベテラン」ダブルス本選です。初戦をストレートで勝ち上がった僕たちは、2回戦で右近貴志・綿谷義樹ペアと対決します。これが初めての対戦でしたが、試合開始早々からその強さに圧倒されました。この試合、結果として6-3、6-3でのストレート勝ちを収めたので、スコアだけを見ると無難な戦いように見えますが、実際はとても中身の濃い試合でした。
レシーバーが相手のサーブを破ってゲームを取ることを「ブレイク」と言いますが、この試合では互いにこの「ブレイク」を取り合いながら、1ゲームを争う激しい展開となりました。僕たちは草トーで培った「1セットを勝ち抜くための方程式」を徹底することで、一進一退の攻防が続くタフな戦いを制することができたのです。
テニスではサーブを打つ「サーバー」と、サーブを受ける「レシーバー」が、1ゲームごとに交代しながらゲームを進めていきます。1ゲーム終わる度に、サーブ権が交代するということです。
当然、ボールをコントロールできるサーバーが有利ですから、ここでシンプルに「サーバー」がゲームを取ると仮定すると、○1-0●、●1-1○、○2-1●、●2-2○、○3-2●という展開になります(先攻が自分、後攻が相手/○がサーバー、●がレシーバー)。
ですが、もしここで相手のサービスゲームをブレイクすると、カウントは●4-2○となり2ゲーム先行します。その後再びサーバーがゲームを取り合う展開に戻ったとすると、○5-2●、●6-3○となり、2ゲーム左のままそのセットが終了します。
このことはつまり「自分のサーブを絶対に落とさずに、相手のサーブを1回でもブレイクすれば必ず勝てる」ことを意味します。特にダブルスの場合、二人で守るためディフェンスが堅くなるので、この法則がより際立ってくるのです。
このように自分たちのサーブゲームは絶対にキープし、相手サーブゲームでブレイク先取するのが、僕たち黒田・佐藤ペアが草トーで培った必勝戦術です。
通常、テニスは3セット(グランドスラム男子は5セット)で行われますが、社会人対象の草トーは、開催日程が週末2日間と短いため、試合の勝敗を1セットのみで決めていきます。そこで僕たちが1セットマッチを確実に勝ち抜くために編み出したが、この「必勝戦術」でした。
とはいえ先ほどの理論通りに試合が進むとは限りません。実際の戦いでは、こちらのサービスゲームを相手にブレイク先取されてしまうことも起こり得ます。そうなった場合は、もう一度相手のサーブゲームを奪い返す「ブレイクバック」が必要になります。その対策として僕たちがとったのが「2バック」体制でした。
「2バック」とは、ペア2人そろってサービスラインより後ろにポジショニングする、守備的な陣形です。ネットから距離があるため、相手サーブに余裕を持って対応できるので、ネットプレーヤーの足元に沈める弾道や高い軌道を描くロブなど、敵の陣形を崩す返球が可能になります。打ったボールが相手前衛を抜いたらすかさず前に出て、広がったスペースを目掛けて叩(たた)き返す。それが僕たちの勝利パターンでした。
ただしこの戦術は、多用し過ぎると相手に読まれてしまいます。状況に応じて臨機応変に対応を切り替えることが必要です。黒田君と僕は戦術の引き出しをいくつも共有していたので、阿吽(あうん)の呼吸で戦い方のパターンを変化させていたのです。
それらの戦術パターンが、二人が草トーで培った「1セットを勝ち抜くための方程式」です。このあたりの詳しい戦術は「テニスダブルスの必勝術(実業之日本社)」に掲載されていますので、興味のある方はご一読いただければと思います。
ダブルスプレイヤーとしての僕は、パートナーに合わせて戦術を組み立てていくタイプです。例えば黒田選手と組む場合は、タイミングやコースをずらして相手のミスを突く戦い方を軸にゲームを構築していきますし、一般大会でパートナーを組んだ伊藤選手や、後に「ITFワールドテニスマスターズ」でパートナーを組む有本尚紀選手とプレーする場合は、二人とも積極的にネット前に出て、速いボール展開で相手を圧倒する攻撃的な戦い方を実践しています。
ダブルスで勝つためには、ペア同士のポジショニングとコミュニケーションが重要です。自分のプレーススタイルを決めつけず、どうすればパートナーの強みを引き出せるか。
そのことを考え、相手によって自分のスタイルを柔軟に変化させられれば、誰と組んでも勝率を高めることができます。組めるパートナーが多いほど大会への出場機会も増えますし、ポイントもより多く稼げるようになります。それにより、自分のテニスの幅も広がっていくはずです。