第20話 14の夜 | 佐藤政大 公式サイト

中学2年生の夏休み。悪友たちの間で、ある計画が持ち上がりました。クラスメイトの女子の両親が所有するアパートの一室が空いているので、みんなで夜に集まって“飲み会”をやろう、ということになったのです。——中学生なのに。

そして迎えた当日の夜、時刻は深夜11時過ぎ。僕を含めて6人ほどの仲間と待ち合わせ、3台の自転車に分乗してアパートに向かいました。国道を走る僕たちの前に1台の自動車がゆっくりと並走したのは、道路の反対側に渡ろうと、車の流れが途切れるタイミングを見計らっていた時のことでした。横に並んだ車の助手席の窓ガラスがゆっくりと降りていきます。飲み会を前に浮かれていた僕たちの間に、警戒感が広がります。そして車の中から聞こえたのは、「お兄さんたち、どこ行くの?」という男の声。状況をつかみきれない僕の口からは、とっさにおぼつかない口調で「え、いや別に」の声が漏れました。「ちょっと止まってくれる?」と男。そして一瞬の静寂の後「いいから止まりなさい!」と男の口調が急変。すると僕の後ろに二人乗りしていた友達が「お巡りだ~!!」と大声を上げました。

僕たちを止めようとしたのは、私服警官だったのです。その途端、誰ともなく「逃げろー!」と叫びながら、みな一斉に全速力で走り出しました。二人乗りしていた友達は自転車から飛び降り、自力で逃げ始めます。その先の逃走ルートは二股に分かれており、僕以外の仲間たちは右方向へ逃げました。しかしどういうわけか警察は、ただ1人左方向へ逃げた僕を追い掛けてきます。

万事休す。もう逃げ切れないと観念し、僕はその場で自転車を止めました。警察車両は一旦その場で停車し、私服警官がドアを開けて降りてきました。その瞬間、僕は一瞬の隙をついて再び逃げ出します。無意識に行った反射的な行動です。きっと、太古の時代から人間のDNAに刻み込まれた逃走本能が発露したのに違いありません。その時のスピードの早さは自分でも驚くほどで、あんなに早く自転車を漕いだのは一生に一度きり。まさに火事場の馬鹿力とはこのことです。

警官は持っていた懐中電灯を投げつけてきましたが、僕に当たることなく空を切り、音を立てて地面に激突しました。飛んでくる懐中電灯を無意識に避けていたのです。もちろん極限状態だったからこそ、僕はその弾道を読み切れたのであって、普段の僕なら間違いなく当てられていたに違いありません。

その後のことは無我夢中で覚えていないのですが、気がつけば僕は警官を撒いて逃げ切っていました。いつの間にか片方のサンダルがなくなってはいましたが……。その夜に僕が履いていたのが、唯一の靴であるテニスシューズでなかったのは、不幸中の幸いでした。

我に返った僕は、「きっとまだ警官達は僕を探しているに違いない。家やアパートに向かえば途中でまた警察に出くわす可能性がある」と考え、近くの友人宅に向かいました。外から彼の部屋の窓ガラスをたたき、かくまってくれるよう懇願しましたが、どういうわけか彼は中にいれてくれません。しかたなく、僕は彼の部屋の窓の下にうずくまり、朝が来るのを待ち続けたのです。軒下で眠ったため、体中を蚊に刺されまくったのは言うまでもありません。

一方、僕とは反対側の右方向に逃げた仲間たちは、僕が戻ってこないことを心配していました。「きっと警察に捕まったに違いない」と考え、近くの交番までこっそりと様子を見に行ったそうですが、僕の姿はありません。かといって、交番内の警察官に尋ねる訳にもいかず、悶々(もんもん)とした時間を過ごしていたそうです。とうとう最後は、「きっと警察署に連れ行かれてしまったに違いない」と、諦めて帰ったといいます。

結局、僕ら6人のうち誰1人としてアパートにたどり着くことができないまま、その夜は明けていったのでした。

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