第41話 小さな誤算 | 佐藤政大 公式サイト

フリーランスでのコーチと平行して、僕はTスポーツクラブ所属のインストラクターの仕事も続けていました。
20代も半ばとなる頃には、フリーランスコーチとしても、クラブインストラクターとしても仕事量が増え、安定した収入を得られるようになりました。

Tスポーツクラブでは「インドアテニス倶楽部」という屋内コートでのレッスンを担当していました。
「インドアテニス倶楽部」は、Tスポーツクラブ運営のテニススクールで、生徒の募集とレッスンチケットの販売をTスポーツクラブが行い、実際のレッスンに関しては一切が各インストラクターに任されていました。
僕もその「インドアテニス倶楽部」インストラクター陣の一人として自分のクラスを受け持っており、報酬は1回ごとのレッスン単位で支払われていました。

しかしその後に歩合制が導入され、報酬額はレッスン単位ではなく生徒の数に応じての支払いに変更されました。そのため、多くの生徒を集められるインスタラクターが、より多くの稼げるようになったのです。人気のあるインスタラクターには、「ファン」的な生徒がたくさんいますが、これはテニスに限らず、他のスポーツクラブなどでも共通していることだと思います。

僕は、あの「思いやりのさじ加減」を教訓に、可能な限りひとり一人の生徒と真摯(しんし)に向き合うことを大切にしていました。どうしたら生徒が喜んでもらえるか工夫し、レッスンの質の向上を目指して自らのスキルアップにも励んでいました。
その甲斐あってか、僕を慕ってくれる生徒さんもたくさんおり、気が付けば僕は、生徒たちの間で評判のインスタラクターとなっていました。この報酬制度の改定がモチベーションになった訳ではありませんが、僕の中には今まで以上に「もっと生徒を集めたい」という気持ちが芽生え、より積極的にレッスンに取り組むようなりました。そして受け持ちの生徒さんの数も、300名を超えるほどに増えていったのです。

その一方で、父が運営するサトウテニススクールは、小さな誤算から大きなトラブルに見舞われていました。
テニスコートの地主さんとは、特に契約書を交わすこともなく、昔からの信頼関係に基づき、口頭での約束で土地を借りていたのですが、その地主さんが突然、スクールで使用していたコート4面を含む一帯の土地を売却してしまったのです。しかも、父たちに何の事前説明もないままに、です。

売られた土地にはスーパーマーケットが建つということでしたが、きちんとした賃貸契約がなく「借地権」を主張できないため、クラブは黙って立ち退くしかありません。

テニスコートを失うことは収入を失うことを意味しますから、父も僕もスタッフたちも必死です。
あちこちに声を掛けたり、宇都宮中を回ったり、貸してもらえるテニスコートを探しました。そんな僕たちに、ある日朗報が入ります。宇都宮西部郊外の高台に建つ「宇都宮グリーンテニスクラブ」から、願ってもない返事が届いたのです。

「所有コートのうち、使用していない3面を専用で貸し出しても良い」という内容で、賃貸料も今までと同程度という好条件でした。捨てる神あれば拾う神あり、とは言い過ぎかもしれませんが、なんとかギリギリのタイミングでサトウテニススクールは存続することができたのです。

それまでのコートは宇都宮南部だったため距離はありますが、ありがたいことにほとんどの生徒さんたちは退会することなく、そのまま一緒についてきてくれました。やはり父の生徒さんたちもまた、父の「ファン」であったのです。無事に新天地を見つけられ、父や僕はもちろん、スタッフや生徒たちもほっと一安心。意気揚々と新しい舞台でレッスンに励むことになりました。
ですが、そこはプラス思考過ぎる父のこと。実はこの時、以前の失敗を忘れ、またしても口頭のみでの賃貸契約を結んでしまっていたのです。そしてこの事実がやがて大きなトラブルの原因となり、さらに僕にとっても大きな運命の転機を呼び込むことになるのです……。

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