第32話 相手を想う難しさ | 佐藤政大 公式サイト

錦織圭選手の代名詞とも言える「エアK」。実は僕も高校時代に同じように、空中にジャンプした状態で高い打点から力強く放つことを行なっていました。当時はそれが技であるとく認識はなかったのですが、今は自分で「エアM」とよんで自画自賛しています。

高校生の頃から「ドロップショット」や「股抜きショット」など、相手の意表を突くトリッキーな技を好んで使用していた僕は、栃木県のテニス協会から目をつけられる存在でした。

それは、僕が小学4年生から全国大会に出場していたこと、そして国内から選抜された高校生・中学生が競い合う「ウィンブルドン ジュニア」県予選に、中1で初出場・初優勝を果たしていた実績などから、県の強化選手に選ばれたことが関係しています。というのも、その県のテニス協会のジュニア委員長を勤めていたのが僕の父だったためです。周囲からは「自分の子供を強化選手に選び、育成資金を使っている」と陰口を叩かれていたのです。

しかし、当然ながら父は何の裏工作もしていませんし、僕が強化選手に選ばれたのも単に試合に勝ったからに過ぎません。ただ、当時の僕はその髪型や服装、態度などから「調子に乗っていて生意気だ」と言われていた僕は、異端のテニスプレーヤーとして、悪い意味で目立つ存在だったのです。

それでも、勝ち続けているときはまだ良いのですが、負けが続くと協会の会議にかけられ、「勝てない理由」を追求されるのです。特に県の強化費で県外遠征へと行ったにも関わらず、負けて帰ってきた時などは針のむしろでした。

会議の場で論理的に問題点を見つけ、互いに改善方法を探っていくのなら納得もできるのですが、実際は「ふざけたプレーをしているから」とか、「悪い友達と付き合っているから」、「テニスプレーヤーにあるまじき不良じみた服装に問題がある」といった、僕を否定するような指摘ばかり。今考えれば、確かに自分にも悪い面はありました。でも当時は「なんでいつも俺ばかり批判の的になるんだ⁉︎」と憤りを感じていました。「テニスが大好きだったのに、それを嫌いにさせたのは貴様ら大人たちじゃないか!」といった、悲しみ、怒り、諦めの感情を日々募らせていたのです。

中でも僕にとって一番つらかったのは、高校3年の時に付き合っていたYちゃんとの関係を問題視され、「彼女にうつつを抜かして練習がおろそかになっている」とのバッシングを受けたことでした。彼女もテニス部の所属とはいえ、中身は普通の女子高生。周りの友達と同じように、彼氏と音楽を聴いたり、テーマパークに行ったりと、僕と一緒の時間を過ごすことを望んでいたのです。僕もその気持ちは痛いほどわかっていましたが、それでも「俺が勝てないとお前のせいにされるから」と、僕は彼女よりも練習に時間を優先して割いていたのです。それは、彼女との関係を懸念されることを恐れての決断でした。

しかし彼女はそんな僕の態度に耐えきれず、最終的に別れを切り出したのです。僕の中では、彼女を想っての行動だったのに、結果として彼女に傷つけてしまった。将来は結婚しようと決めていたほど大好きなYちゃんに、寂しい思いをさせてしまった。僕はひどく後悔し、自分を責め続けました。と同時に、こんなに僕たちを追い込んだ大人たちを強く恨みました。

けれど気づいたのです。「彼女のためと想って練習を優先したのは、他ならぬ僕自身だ」と……。どんなに相手のことを想っての言動であっても、それは相手が喜んでくれてはじめて相手のためになる。自分の思い込みを押し付けてはダメなのです。残念ながら彼女との関係は終わり、二人の心には傷が残りました。

その引き換えというにはあまりにも大きな代償ですが、「相手が喜んでくれてこそ相手のため」という真実に気付かされたことは、僕とって大きな教訓となりました。今もコーチングを行う時や部下を指導する時、家族や友人と接する時、この大切な教訓を忘れないよう、いつも自分自身に言い聞かせています。

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