エピローグ | 佐藤政大 公式サイト

エピローグ

「日本チャンピオン」になった翌年、僕はNHK宇都宮放送局からテレビ取材を受けました。きっと日本一になって浮かれていたのでしょう、そのインタビューの中で「次の目標は?」と尋ねられ、つい勢いで「60歳でも70歳でも80歳でもいいから、いつかは世界一になりたいです」と言ってしまったのです。うっかりとはいえ、一度口に出してしまった以上は後には引けません。

 僕はこの発言を切っ掛けに世界のベテランテニス大会について調べました。すると既にITF(国際テニス連盟)の世界シニアランキングが存在し、多数の選手が参戦していることがわかったのです。この事実を知った瞬間、「これなら俺も行けるかも!」と直感しました。漠然と浮かんでいた世界で戦うという夢が、現実的な目標として「可視化」されたのです。どうすれば世界ランキングを獲得できるのか、どんな選手が世界ランク1位なのか、どうやったら自分が首位に立てるのか。目標を明確にすると、たくさんの具体的な課題が浮かび上がってきました。

 いま僕は、松岡さんはじめ日本商業開発の皆様、サトウグリーンテニスクラブのスタッフ、そして多くの仲間たちに支えられながら、このITFシニア公式戦に参戦し、世界ランキングという新たな目標に挑戦しています。ずいぶん遠回りしてしまったけれど、幼いの頃から漠然と夢見ていた「世界」という舞台を、ようやく真の目的地に定められたのです。

 「ラケット1本で世界中に友達を」。僕がまだ小学生の頃に旅立ってしまった母がよく口にしていた言葉です。あの頃は「いつか僕も世界を相手に戦う選手になるんだ」と無邪気に思っていましたが、実際にその場所に立てる人間はほんの一握りです。言葉で表せないほど険しい道のりでしたが、幸いにして僕は多くの出会いに恵まれ、なんとか世界への入り口にたどり着くことができました。45歳を過ぎてようやく、母の言葉を実現するチャンスを得たのです。本当に感謝しかありません。

 けれど僕の周りには、才能に恵まれながらも収入のためにテニスをあきらめざる得なかった同世代のプレイヤーが大勢います。そんな仲間たちのためにもITFシニアへの道を拓き、日本人が世界と戦える環境を整えたい。そして「佐藤政大ができるなら自分だって」と、チャレンジする仲間が1人でも出てきてくれたら、こんなに嬉しいことはありません。学歴もなく、お金もなく、あるのはテニスだけの僕ですが、誰もが幾つになっても夢を追うためのきっかけとなれれば…。生意気かもしれませんが、本気でそう思いつつ、世界への挑戦を続けています。

 現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が続き、かつてないほどの不安が世界中を取り巻いています。誰もが先の見えない不安を抱えながら、日々の生活を送っています。残念ながら、コロナと向き合わなくてはいけない時間はもうしばらく続きそうです。だからこそ今、大切なのは諦めない姿勢。どん底に突き落とされる度に、僕も何度も「もう無理かもしれない」と諦めそうになりました。

 それでもクサらずに前向きに頑張れたのは、「最善を尽くしてきた」ことを、他の誰よりも自分自身が知っていたからだと思うのです。無理して努力するよりも、諦める方が簡単だし、一旦は心が楽になるでしょう。でもそれでは、コロナが過ぎ去った後に自分の軌跡を振り返った時、きっと悲しい気持ちになるのではないでしょうか。

 僕のようなダメ人間でさえ、あの時に頑張れたのです。どうか自分を信じて、心までコロナに負けないで。この危機を乗り越えたとき、きっと、今までよりも強い自分になっているに違いありません。想いは僕も一緒です。ひとりで抱え込まず、みんなで乗り越えていきましょう。

語り 内田裕也 / 執筆 小貫和洋 / 監修 佐藤政大

 

 

< 戻る最初へ (プロローグ)>

お問い合わせ
PAGE TOP